対談「腸内フローラの真実」

2016年10月27日、千葉県某所にて

向かって左が光岡知足先生
弊社代表・村田が、腸内細菌学のパイオニアである光岡知足先生(東大名誉教授)と、会談いたしました。


86歳とご高齢の光岡先生ですが、バイオジェニックスの腸内環境改善における有用性など、先生の提言は以前にも増して熱気を帯び、弊社にとっても針路となるヒントをいただきました。


articleicon「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の割合がカギ

 村 田  2015年2月22日にNHKスペシャル「腸内フローラ解明!驚異の細菌パワー」という番組が放送されて以来、「腸内フローラ」という言葉が人のロに上るようになりました。腸内細菌の研究をライフワークとされ、世界的に大きな実績を残されてきた光岡先生は、この腸内フローラにについてどのようにお考えですか。



「善玉菌」「悪玉菌」。
私がこの言葉を日本で最初に使ったのは
1953年のことです
 光 岡 「善玉菌」と「悪玉菌」。いまではすっかりお馴染みの言葉ですが、この言葉を使ったのは私が最初だろうと思います。


いまから60年以上前、赤ちやんの腸にしかいないと思われていたビフィズス菌が、大人の腸にも存在することを発見した1953年のことです。最近では「腸内フローラ」という言葉がよく知られるようになりましたが、フローラが「お花畑」を意味するように、それは菌たちの生態系、腸内環境そのものを表します。


腸内環境でカギとなるのは、「善玉菌」「悪玉菌」、善にも悪にもなる「日和見菌」の割合です。私は一つの目安として、これらの菌が「2対1対7」の割合で共生しているとき、宿主であるヒトの腸は健康を保つことができる、と考えています。言い換えるならば、「全体の2割が善玉菌=ビフィズス菌に変わるだけで、腸という小宇宙の調和は保つことができる」ということです。


 村 田  NHKスペシヤルでは、「腸の中にはじつに100兆以上、数100種類もの細菌が棲んでいて、その細菌群=腸内フローラのつくり出す物質が、私たちの美容や健康にさまざまな影響を及ぼしている」ということが重要なポイントとして紹介されていました。遺伝子工学が発展して多くの腸内細菌が発見され、その存在は確認できるようになりましたが、発見した菌を培養し、その性状を明らかにすることができていません。


私は、光岡先生が腸内細菌の培養方法・検索法を確立されていることに着目し、ご講演を聴講したことが始まりで、当社が腸内細菌の研究を長年にわたり行なっていた関連で何度もご指導を仰ぎに伺いました。


光岡先生主宰の「理化学研究所・腸内フローラシンポジウム」が、1980~1991年の12回で終了せざるをえなくなったことが残念でなりません。理研での研究が続いていれば、菌の培養・分類・同定がもっと進み、メタゲノム解析によるフローラを構成する菌種の性状も明らかになって「腸内フローラ」の科学が大きく進歩したと思います。




 光 岡 たしかに培養は大切です。ヒトの便の重量の1/3は腸内細菌やその死骸です。その便を10倍、100倍、1,000倍に希釈しながら腸内細菌を培養していくことが「腸内フローラ」の実熊を知る第一歩です。


さらに100万倍、1,000万倍、一億倍に希釈していく作業を繰り返し、やがてビフイズス菌のような単一の菌を取り出すことができるようになる。これが純粋培養です。さらにこれを同定するには50種類以上の項目を調べ、性状を見極める必要があります。


これらには職人的な技術や直観が求められますが、分子生物学が進み、遺伝子解析で腸内細菌の同定ができるようになったいまとなっても、「腸内フローラ」の実態を把握するには長年受け継がれてきた技術が継承されていくことが望ましい、と思います。





メタボローム解析の結果は、
光岡先生にも喜んでいただきました
 村 田  もちろん分子生物学的分析手法も素晴らしいと思いますが、菌を単離培養して性状を確かめることも忘れてはならないと思います。一つひとつの菌の性格を知り、菌と向き合うことの大事さを、私も複数の菌を共棲させ「乳酸菌生産物質」の製造を行なうなかで実感してきました。


当社では、45年前から「腸内フローラ」に代表される乳酸菌の共棲培養法の研究を続け、20年前に16種・35株の乳酸菌・ビフィズス菌群を「腸内フローラ」の最強チームとして確定しました。


その複合乳酸菌を、国産無農薬大豆から作製した豆乳を培養基として共棲培養し、その代謝産物として「乳酸菌生産物質」を完成させ、健康食品などの原料として供給しています。2014年にこの「乳酸菌生産物質」をヒューマン・メタボローム・テクノロジー社による最新のメタボローム解析技術で解析してもらったところ、身体の健康に有用な34のペプチドを含む352種類の発酵代謝物質の特定に成功しました。


そのなかには、抗ストレス機能をもつ糖脂質「ステリルグルコシド」やオルニチンをはじめとする各種アミノ酸、イソフラボン、グルコサミンなど数多くの健康機能物質も含まれています。その解析結果を光岡先生にご覧いただいたところ、「これで私の提唱するバイオジェニックス論が証明された」と喜んでいただきました。




articleicon「生きた菌」を重視し過ぎ


生きた菌・死んだ菌に関わりなく
腸に作用する、ということ
 光 岡 「腸内フローラ」を整えるための食餌として、これまで食物繊維やオリゴ糖などビフィズス菌のエサをつくる、ないしはエサになる食品を摂る「プレバイオティクス」やヨーグルトのような「生きた乳酸菌」を含む食品を摂る「プロバイオティクス」が推奨されてきましたが、それでは「死んだ菌を摂っても意味はない」ということになる。


じつは、これは正しいこととはいえません。実際に殺菌酸乳の健康効果を綿密に調べると、十分な効果が見られることが確認できるからです。要するに「生きた菌・死んだ菌に関わりなく、菌体成分や菌がつくり出したものが腸に作用する」ということです。私は、「生きた菌」を重視し過ぎるいびつさを改善するために「プロバイオティクス」に代わる「バイオジェニックス」という新しい概念を提唱しています。


乳酸菌の菌体成分が腸を刺激し、「腸内フローラ」を改善し「腸管免疫」の働きを活性化させるのですから、ヨーグルトを毎日大量に摂るのが大変だという人は、菌種や菌体成分が豊富に含まれた乳酸菌のサプリメント(乳酸菌生産物質、乳酸菌生成エキスなど)を摂ることを
お薦めします。


「プロバイオティクス」(生きた菌)の定義から外れるため評価されないことが多かったようですが、じつは、「乳酸菌生産物質」のように「バイオジェニックス」として優れた製品はたくさんあります。




 村 田  いま光岡先生のお話にもあったように、近年、ヒトの免疫の仕組みが解明されていくにしたがって「腸管免疫」という言葉が注目されるようになりました。ヒトの免疫機能の大部分が腸にあって、「腸内フローラ」が関与していることが次々と発表されていますが、そもそも「腸内フローフ」があってこその「腸管免疫」だと思います。「腸管免疫」の大事さを広めるためにも、まずは光岡先生の開発手法による「腸内フローラ」の研究が極められることを望んでいます。





腸内フローラは、一つの小宇宙でもあり、
人間社会の縮図のようでもある
 光 岡 菌たちの生態系である「腸内フローラ」のありようは、一個の小宇宙であると同時に人間社会の縮図のようにも映ります。冒頭に述べたように、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の割合は「2対1対7」が望ましいと考えるのですが、いくら善いものであってもすべて善いものに変えてしまう必要はありません。


構成する大部分が善とも悪ともつかない、どっちつかずの菌であったとしても、それが善い働きを邪魔するわけでもありません。悪いものが存在していたとしても、必ず悪影響を及ぼすとも限りません。大事なのはあくまでも全体のバランスなのです。「善玉菌」であるビフイズス菌が一定の割合さえ保っていれば、大多数の「日和見菌」も安定し、「悪玉菌」も悪さをすることはありません。


同様に、人間社会にも優秀な人がいればそうでない人もいます。「悪玉菌」が増殖すると「腸内フローラ」が腐敗していくように、悪がはびこれば社会は腐敗していきますが、かといってそうした悪をすべて排除し、善いものだけを残そうとしても全体が調和するわけではありません。


それよりも、その環境をよい方向に変えていくことを考えましょう。「善玉菌」を増やすことがカギになってくるのは、「善玉菌」に環境をプラスに変える力が潜んでいるからです。生存環境が改善されれば腐敗は発酵に切り替わり、腸内環境は居心地のよいものになっていくのです。




articleicon答えは便になって現れる


生きた菌を食べたり飲んだりしても
発育、定着しづらい……


 村 田  光岡先生の「バイオジェニックス論」にもありますように、「腸内フローラ」の状態が人の健康を決定付けているのは確かです。


ヒトの腸内では、その人が生まれたときから共生状態で棲み着いている腸内常在菌がいて、「生きた菌」を食べたり飲んだりしてもなかなか発育、定着しづらいといわれています。


一方、「腸内フローラ」がつくり出す「乳酸菌生産物質」を体外でつくり、直接摂敢することで、私たちの腸に定住する乳酸菌に何の抵抗もなくそれを受け入れてもらえます。


病気や加齢により十分に得られなくなっている自前の代謝物の代わりをしてくれて、「善玉菌」が勢いを取り戻す助けにもなるのです。


 光 岡 「腸内フローラ」の状態を確かめるには、単純明快、お腹の声を聴けばわかります。もっとわかりやすくいえば、その答えはつねに便になって現れます。いみじくも便を「便り」と書くように、それは身体の発するメッセージそのものといえます。


これまで、年齢、性別、国籍問わずさまざまな人の便に接してきましたが、ポイントとなるのは健康な人ほど便の量が多いという点です。便の量が多いことは菌の数が多いことを意味します。すなわち、腸の蠕動が盛んで「腸内フローラ」のバランスが整っていることが推察されます。いきおい、その便は臭くないことでしょう。


人生百年の時代に「健康長寿」で人生を全うするには、まず「身体の声」に耳を澄ませ、何を食べれば自分が元気になるかを判断することです。私自身、
一消費者として食事やサプリメントを摂るなかでまず大事にしてきたのは、自分自身の体感であり、お腹(腸)の調子です。


実際に体調がどう変化したのか? 元気になれたのか? お通じは改善できたか? その基準は皆さん一人ひとりのお腹の中にあります。自分なりの体調管理に努め、腸を元気にする生き方を身に付けてください。好きなことをしながら調和を乱さない。そんなバランスの取れた生き方のヒントは、皆さんのお腹の中の腸内細菌が教えてくれます。


 村 田  光岡先生、ありがとうどざいました。私も「腸内フローラ」がつくり出す「乳酸菌生産物質」の食品分野のみならず、できれば薬品分野への普及を通じて、人生百年時代の高齢社会の健康に寄与できるよう、ひいては世界人類の健康増進に貢献できるよう社業に敢り組んでまいります。





光岡知足(みつおかともたり) 東京大学名誉教授
1930年、干葉県市川市生まれ。
東京大学農学部獣医学科卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。
1958年、理化学研究所に入所。ビフィズス菌などの腸内細菌研究の世界的権威として同分野の樹立に尽力。
「善玉菌」「悪玉菌」の名付け親として知られる。
現在、東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員、日本獣医生命科学大学名誉博士。
日本農学賞、科学技術庁長官賞、日本学士院賞、メチニコフ賞などを受賞。


村田公英(むらたきみひで) 光英科学研究所社長
1940年、山口県山口市生まれ。
1959年電子工学系専門学校を卒業後、義報社に入社。
同社の大谷光瑞農芸化学研究所にて、乳酸菌生産物質の生みの親である正垣一義氏に師事し、乳酸菌の培養技術を学ぶ。
1969年、光英科学研究所を設立。以降、約50年にわたり「乳酸菌生産物質で、世界人類の健康増進に貢献する」という理念のもと独自の研究開発を行ない、健康長寿に貢献し続けている。

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